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導入事例|「俺も少しはやれたかな」―あえて“社外”に依頼し創業者の軌跡をストーリーブック化した理由と効果|株式会社パイ・アール

クラウド型アルコール検知サービスで国内シェアNo.1を誇る株式会社パイ・アール(以下、パイ・アール)。

事業が順調に拡大する中、2025年7月に創業者である安田功さんから代替りとして、社長に就任された安田將佑さんには、ある課題がありました。

「2025年5月に、会社のビジョン/ミッション/バリューを刷新し、会社として進むべき『北極星』になるよう明文化しました。

ですが、それを社員が自分の言葉として語るには、もっと咀嚼し、それぞれ自身の中に落とし込んでいくプロセスが必要だと感じていました。

加えてもう一つ感じていたことがあります。

それは、創業者である会長のこれまでの経験を、社員の7割が詳しく知らなかったこと。

パイ・アールを設立するまでに、どんな事業をしてきて、なぜこの事業にたどり着いて、その中で何を大切にしてきたのか—それらを、社員に伝える機会がこれまでなく、社員の多くが”断片”でしか知らない状態も、ずっと気になっていました」

そこで始まったのが、会長の歩みと想いを言語化し、一冊のストーリーブックとしてまとめるプロジェクトです。

会長の想いや軌跡を言葉に残すことで、何が変わり、どんな効果が得られたのか。プロジェクトの背景と起きた変化を、パイ・アール 代表取締役の安田將佑さんに伺いました。

採用相談から始まったはずが、見えてきた”原点”共有の課題

高野:安田さんとは昨年の春頃にご縁をいただいて、ご一緒することになりました。最初は採用ブランディングのご相談でしたよね。

安田:はい。「採用を強化したい」という想いはありましたし、その気持ちは今も変わりません。ただ、ヒアリングをしていただく中で、採用ブランディングの前に「これまで」をまず整えないといけないと感じるようになりました。

それは「ビジョンやミッションの落とし込み」そして「パイ・アールの原点の言語化」についてです。

実は当時、社内でビジョンやミッションを刷新しました。

素晴らしいビジョンとミッションになったのですが、これを社員が自分の言葉として語るには、まず腹落ちさせるプロセスが必要だと感じていました。

また当時は、会長のこれまでの歩みや考え方が、社員に断片的にしか伝わっていない点もずっと気になっていました。

社員は当時で80名ほどおりましたが、会長がもともと何をしていて、なぜパイ・アールの事業に出会ったのかといった経緯まで含めて把握しているのは、せいぜい幹部層。

会長が小学校の頃から働いていたことも、様々な事業をゼロイチで立ち上げて商売感覚を磨いてきたことも、社員の7〜8割は知らない状態で、会長の歴史や価値観が社内に十分伝わっていなかった。

「会長って、もとはエンジニアですよね」

そんな勘違いしている社員もいたほどでした(笑)

高野:社員さんに向けて、経営層の方が自分のことを話す機会は、なかなかないですよね。「過去を語ると自慢みたいで嫌だから…」と、あえて話さない方も多い印象です。

そうした背景もあって、会長の歩みや言葉を「今のうちに」言語化して残しておきたい、という話へつながっていったのですね。

言葉を残せるのは今だけ。会長の決断を後押ししたタイミング

高野:このプロジェクトが立ち上がり、実際に決定し、進むまでは、とてもスピーディーだった印象です。安田さんが優先順位を上げて取り組んでくださることが肌で感じられたのですが、その背景を改めてお聞かせいただけますか?

安田:タイミングがすべてだったと思います。実は会長は2024年に病気で倒れてしまい、言葉がうまく話せなくなり、歩けなくなった時期がありました。

そこから本人も必死でリハビリをして、ようやく話せるようになり、歩けるようになって…そのタイミングで、高野さんとのご縁をいただきました。

もし、もっと前にお会いしていたとしても「今はそんな状況じゃないから」と言ってお断りしていたように思います。

あのタイミングが、ベストでした。

実は会長自身、これまでインタビューを受けるタイプでは一切ありませんでした。そのような依頼があっても全て断ってきたようです。

僕はそんなところで話せるような大した人間じゃないから」と。

でも、私が7月に就任することも決まって、会長としても「次にバトンを渡さないといけない」という覚悟も決まり、「今のうちに自分の軌跡や想いを整理し、言葉として残しておく」というところに、チャレンジしようと思ってくれたのだと思います。

社内では聞けない。だから”第三者”が必要だった

高野:会長の歩みや想いを残すとなった時、身近な家族や社員がその話をインタビューして聞き出すというのも、なかなか難しいと思います。その点はいかがでしたか。

安田:まさにそこが大きかったです。会長は私の父でもありますし、距離が近いからこそ、会長も言いづらいところも出てきます。

お互いに感情も入りますし、照れもある。それに既知の過去もあるので、全てを語らない。

社内や家族が真正面から「これまでの人生を語ってください」とお願いしても、それはなかなか難しかったと思いますね。

ですから、今回のインタビューと言語化は、「第三者に行っていただく」ことが大前提でした。利害関係もなく、ほどよい距離があるからこそ本音が出せるし、感情の偏りをできるだけ外して、会長の言葉として、まっすぐにその歴史を残せると思いました。

高野:確かに…私も実は今、父親の軌跡を残そうと、父のストーリーブックの作成を進めようとしているのですが、親子関係で話を引き出すのはなかなか照れくさいものがあります(笑)

安田:そうですよね。ですから今回は、高野さんにぜひインタビューをお願いしたいと思いました。高野さんとは共通の知り合いも多いですし、初めてお会いした印象から、「この方であれば、会長の心を開いて話を引き出していただける」と思いました。

そして、実際に進めてみると、ただ質問するだけではなく、場のつくり方に大きな魅力があると感じました。

相づちやリアクションが自然で会話が心地良い。本人が、話しているだけで元気が湧いてくるというか…「もっと話を聞いてもらいたい、もっと話したい」と思える空気をつくってくださいました。

また高野さんはリアクションが大きくて、相手が話しやすい形を崩さない。しかも、その姿勢が日によってブレることがなくて、毎回同じように受け止めてもらえる。そういう安心感があったからこそ、会長も少しずつ言葉が出てきて、話が深まっていったのだと思います。

高野:有難うございます!そんな風におっしゃっていただきとても嬉しいです!でも、安田会長の話は、本当に面白くて、一つの映画を見ているような感覚で、経営者としてもたくさん勉強になりましたし、私にとっても本当に貴重な機会を頂いたと思っています。

『俺も少しはやれたかな』語ったことで起きた変化と、社内外への波及

高野:では改めてお聞きしたいのですが、このストーリーブックプロジェクトを通じて一番大きかった変化はどこでしたか。

安田:一番大きかったのは…色々あるのですが、なんといっても『会長の自己肯定感が回復したこと』だと思います。

当初「会長がこのプロジェクトで自分の軌跡を振り返ることを通じて、少しでも元気になってくれたらいいなぁ」と密かに思っていたのですが、想定以上にすごく効果があって、本当に嬉しかったです。

病気で倒れてからの会長は、「病気によって出来なくなったこと」に意識が向いてしまうことが多く、一時期は元気がなくなっていました。

でもそんな中、自分自身が人生を語る時間そのものが、会長にとって「自分はこれだけやってきた」と、自信を取り戻し、前を向くきっかけになったんだと思います。

小学校の頃から働き、その後も様々な過酷な仕事を通じて商売の感覚を磨いてきたこと。創業時は少人数だったパイ・アールが、現在のような市場シェアや、組織規模に育っていったこと。

そうした歩みを自分の言葉で語り、整理していくうちに、会長自身も「俺も少しはやれたかな」という感覚が戻っていった。

以前よりみるみる明るくなりましたし、前向きな言葉も増えました。

それともう一つ。想定以上だったのは、ストーリーブックが社内向けだけではなく、社外にも渡せるものになったことです。会長が代理店や関係会社、取引先の方々に「こういうものを作りました」と言って、毎回嬉しそうに手渡ししているんです。

高野:最初は「そんな語ることなんてないで〜」とおっしゃっていた会長が、こうやって自ら配ってくださるなんて、本当に嬉しいです…!

安田:そうですね。このストーリーブックは会社案内とは違って、会社のルーツや、パイ・アールが何を大切にしているのかが伝わりやすいんです。実際にお渡しした相手からも「御社のサービスのこういうところに、会長の考えが生きているんですね!そのことがよくわかりました!」などと言っていただくことがあって…

ストーリーブックって、こういう形で社外に伝わっていくんだなと感じています。

社員のエンゲージメントのような効果だけではなく、社外の方とも価値観を共有するきっかけにもなっている。

そこも良かった点だと思います。

作って終わりにしない。読了・対話の仕組み化と採用ブランディングへ

高野:ここまでのお話を伺い、私自身もとても嬉しく思っています。本当に有難うございます。そのうえで、ストーリーテラーズに今後さらに期待したいことがあれば、お聞かせいただけますか。

安田:そうですね…強いて言うなら、「社員全員にストーリーブックを渡したけれど、本当にみんな読んだのかな」という点が気になるので、社員が読んだかどうか、読んだ社員でディスカッションできるような機会もあればいいなと思います。

あえて「あれ、読んでくれた?」と一人ずつ聞くのは聞きづらいですし、読んでくれた人が私に感想をシェアしたいと思っても、あえて「安田さん!ここが良かったです!」なんて、わざわざ伝えるのも難しいですよね。

なので、ストーリーブックの感想が社内で自由に共有できる形になっているともっと良いなと思いました。

高野:確かに…!読むところで終わらず、感想や対話までつながる仕組みがあると良さそうですね!貴重なご意見、有難うございます!

安田:とはいえ、今回制作して本当に良かったと感じていますし、周囲の企業さんにもぜひオススメしたいです。

たとえば当社の場合は事業承継の意味合いが強かったのですが、周年記念のタイミングで会社の歴史を振り返り、冊子にまとめるといった活用もできるはず。

そうしたきっかけがないと、振り返る機会は意外と少ないものです。会社が今後、方向性を一つにして成長していくうえでは、原点をしっかり言語化し、共有しておくことはとても大切だと思います。

今回このようなご縁をいただけたことに、心から感謝しています。

高野:こちらこそ、そのようにおっしゃっていただき、有難うございます。日頃からさまざまな経営者の方にお話を伺っていますが、「自分の話なんて大したことない」とおっしゃる方が本当に多いんです。

でも、ふたを開けてみると、そこには知恵や想いがたくさん詰まっています。ストーリーテラーズが、それを引き出して言語化するからこそ、残る。

けれど、引き出さないままだと、もしその方が亡くなったときに、貴重な経験や言葉が世の中から永遠に消えてしまう可能性もある。

それはものすごい損失だと思っています。

だからこそ、皆さんの想いや軌跡をきちんと残していくことは、これからのためにもとても大切ですよね。

今回はお話をきかせていただき有難うございました!

取材・インタビュアー:高野/構成・文:栗田加奈子

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