「自分のことを偉そうに語る資格なんて、まだない。ずっとそう思っていました」
そう口にするのは、SAKURAISEグループホールディングス株式会社 代表の粕井健次社長。
2009年創業のお土産菓子・和雑貨の卸売を担う「天創堂株式会社」、そして2021年創業の骨董・古美術品の買取販売を行う「アメネスク株式会社」。
この2社を中心に事業を展開する同グループは、「日本には、販路や売り先、ターゲットを変えるだけで、まだまだ可能性を秘めた商品がある」という想いのもと、インバウンド・アウトバウンドの両軸で市場を切り拓いてきました。
業績は堅調に伸び、前期には過去最高の売上・利益を達成。
それでも粕井社長の胸の内にはずっと、「自分なんて、まだまだだ」という感覚が残り続けていたといいます。
そんな粕井社長が、一冊のストーリーブックをKindleで出版したのは今年の5月。
創業時から支えてくれた、3名の経営者との対談をまとめたその一冊は、今では採用・ブランディングの両面で欠かせないツールとなっています。

今回は、ストーリーブック制作に踏み切った背景と、その後の変化についてお話を伺いました。
「自分なんて、まだまだだ」という思い
高野: 粕井さんのことは創業期から知っていましたが、腰を据えてお話ししたのは2024年のことでした。その後、「そろそろ、ストーリーブックを作ってみませんか?」とお声がけしたのが、今回の取り組みの始まりでしたね。
粕井: そうでしたね。当時は「自分なんて、人前で語れるほどの結果を出していない」という感覚がずっと強かったです。
今でもそう思っていますが(笑)。
だからこそ、公に発信するための“軸”や“体系”と呼べるものが自分の中にまだなく、何を核として語ればいいのかも見えていなかった。
それに加えて、採用面でも課題感がありました。グループのビジョンや目標をしっかり伝え、「仲間を増やしたい」という思いはあるものの、経営者としての視点や歩みを発信できていない。
そんな歯がゆさもありました。

高野:とはいえ、粕井さんの会社は、Wantedlyなどを通じて積極的に発信されている印象を持っていました。
粕井:そうなんです。会社としての発信はできていましたが、“経営者・粕井健次”として自分自身を振り返り、そのストーリーを発信することはほとんどしてきませんでした。
先ほどもお伝えした通り「自分なんてまだまだ、大それたことを言える立場じゃない」という気持ちの方が大きかったんですよね。
社員がこっそり見ている、社長のX
高野: 発信にはまだ抵抗があるとおっしゃりつつ、粕井さんは少し前からX(旧Twitter)でも継続的に発信されていますよね。読むたびに、率直で温かい言葉だなと感じていました。

粕井: アカウント自体は前からあったんですが、去年の夏頃に同い年経営者のakippa金谷さんから「Xをちゃんとやるとすごくいいよ」と教えていただいて。
Xを通じて採用につながったり、本の出版や取材に発展したり…そういう話を聞くうちに、「経営者の発信力は事業に直結する」と実感しました。
そこで、1日1投稿は必ず続けようと決めて、気づけばもう1年以上になりますね。
高野: 私も「Xやろう!」と決めてはやめ、決めてはやめの繰り返しでしたが、最近ようやく本腰をいれるようになりました(笑)。
社長の発信が採用やブランディングに効くと分かっていても、日々の業務の中で優先順位が下がりがち。すぐに結果が出るものでもないので、コツコツ続けるのって本当に難しいですよね。
粕井: そうですね。でも続けていると、実際にXを見てくれている方と出会ったり、採用でも「投稿を見て共感しました」と言ってもらえたり。
手応えを感じる機会が増えてきたんです。
意外だったのは、社内でも見ている人が多いことですね。営業メンバーは、ほぼ全員チェックしてくれています。
高野: フォローしてくださっているんですか?
粕井: いえ、フォローするとアカウントがバレるので、フォローせずに“こっそり”見てくれているらしいです(笑)。飲み会の席で「実は、社長のX見てます!」と言われて、「えぇ!じゃあ『いいね』してやー!」と返したりして(笑)。
高野: すごいです…!でも確かに、自分が社員の立場だったら、自社の社長の発信は気になりますよね。バズること以上に、“検索すると社長の想いがきちんと積み上がっている”という状態は、社内外にとって大きな意味がありますね。
「俺が俺が」ではなく、第三者の目線で
高野:ということは、Xでの発信を続けてこられたタイミングで、ストーリーブック制作のお話になった、という流れですね。
最初の企画段階でもお話しましたが、粕井さんのお人柄を考えると、「自分語りですべての文章を書く」よりも、「第三者が粕井さんの魅力や事業を語る形式の方が自然ではないか」
──そんな話になり、対談形式に決まりました。
粕井: はい。僕自身、「俺が俺が」というタイプではないので、対談という提案はしっくりきました。
ただ、当日どんな対談になるのか、どんな展開になるのかは正直わからない。
完成イメージも持てていなかったので、「果たしていいものになるのか…」という不安は少なからずありました。
だって、i-plugの中野さんなんて、対談の流れ次第では、僕のことボロカスに言う可能性もゼロじゃないですし(笑)。

高野: ボロカス…(笑)!確かに台本なども作らず、出たとこ勝負でしたもんね。
代表世話人の杉浦さん、i-plugの中野さん、そしてJスタイルの小村さん。なぜ、この3名に対談をお願いしようと思われたのですか?
粕井: やはり、創業前後の自分をよく知ってくれている方々だからです。未熟だった頃も、会社の浮き沈みも、コロナ禍の危機も、人としての弱さや成長も含めて、ずっと近くで見てくださっていた。
だからこそ、自分の人間性や判断、どんな時に何を考えていたかを一番理解してくださっている。
長く支えてくださった方々という視点で、この3名にお願いしました。
本当はお願いしたい方はもっとたくさんいて…。逆に3人に絞るのが、とても難しかったくらいです。
自分なんて、まだまだだ。
そう思い続けてきた社長が、対談をきっかけに「よくここまで来れたな」と振り返り、「100社・1000億円」という目標を公言するまで。
そして、その一冊が採用現場でどんな効果を発揮しているのか。
続きは【後編】で詳しくご紹介します。