若者の孤立を社会課題として捉え、支援に取り組む認定NPO法人D×P(ディーピー)(以下、D×P)。
LINE相談「ユキサキチャット」や繁華街の「ユースセンター」、食糧支援や現金給付などを通じて、若者が孤立しない社会とのつながりをつくり、若者が自分の未来に希望を持てる社会をめざして活動しています。
その理事長である今井紀明さんには、活動を続ける中で抱えていた、ある「もどかしさ」がありました。
「D×Pに法人寄付や支援をしてくださっている皆さんが、どんな人たちで、どんな想いをお持ちなのか。その『顔』や『体温』が社内外に伝わっていませんでした。僕は当然皆さんのことを知っているけれども、周囲にそのことが伝わっていないのが、あまりにももったいないと思っていました」

法人寄付や支援の奥にある「人の顔、人の気持ちや体温」を伝えたい。
そんな今井さんの想いから始まったのが、D×Pを支えてくださる企業の経営者にスポットを当てた「対談記事」のプロジェクトです。
記事の発信を始めてから、D×Pの周囲では何が変わり始めたのか。そして、言葉にすることで見えてきた「新しい景色」とは。
D×P代表の今井さんにお話を伺いました。
「久しぶりに話そう」から、対談記事が始まった

高野:今井さんとは、ずいぶん長いお付き合いになりますね。最初はSNSでのやりとりからでした。
今井:懐かしいですね。僕がまだ20代前半で、これから起業しようと動き始めていた時期です。北海道から大阪に来たばかりで、知り合いも少なかったので、経営者の先輩に「とにかく、起業の話を聞かせてください!」と、いろんな方に突撃していた頃でした(笑)。
高野:そうでしたね。その後しばらくは、お互いのSNSを見ていながらも、特にやり取りはありませんでした。
そこから距離が縮まったのは、私がストーリーテラーズを立ち上げた時。お互いの自宅の距離も近かったので、「久しぶりに会いませんか?」と連絡をしたことがきっかけでした。
今井:あの再会は大きかったですね。そこで「せっかくだし、何か一緒にやりたいですね」と、自然と話が進んで。 その時、高野さんが企業の広報支援として、ストーリーを大切にした記事を作っていると聞いて、ピンときたんです。
「あ、これは、D×Pでも一緒に発信していけるかもしれない」と、直感的に、パートナーになってもらいたいと思いました。
「寄付者の思い」を届ける対談記事のはじまり
高野:そこから、法人寄付をしてくださっている企業さんとの対談記事づくりが始まりました。あれは2023年頃でしたね。
今井:はい。当時、法人寄付を広げたいという課題はありましたが、それ以上に「関わってくださる法人企業の魅力を、世の中に知ってほしい」という気持ちの方が強かったんです。
そこで、最初に対談をお願いしたのが、リツアンSTCの野中社長でした。あの記事を出した反響は、想像以上でしたね。共感してくださったり、SNSでリツイートしていただいたり…多くの経営者の方に届いた実感がありました。

高野:何がそこまで響いたのでしょうか?
今井:「法人寄付」というと、どうしても「企業としての社会貢献活動」という枠組みで語られがちで、誰がどんな思いで決めた支援なのかが見えにくいと思うんです。
でも、記事を通じて「どんな社長さんが、どんな原体験を持って、なぜD×Pを支援してくださっているのか」という背景が伝わった。
「想いを持った人たち」の顔が見えたことが、響いたんだと思います。
今井:あと嬉しかったのが、社内メンバーの反応です。
現場のスタッフは、寄付者さんと直接会う機会がなかなかありません。でも記事を読んで、「こんな熱い想いを持った方たちが、私たちの活動を支えてくれているんだ」と、支援してくださる方の「顔」が見えて、社内にも温かい空気が流れた気がします。
高野:当初は社外への発信がメインの目的でしたが、社内の皆さんにも読んでいただけたことがとても嬉しいです…!
今井:こちらこそありがとうございます。また、知り合いの経営者からもわざわざ「あの記事、よかったよ」と、Facebookでメッセージをもらったりして…。「共感」の輪が広がっている手応えを感じました。
継続して発信したことでの変化とは?

高野:2025年の4月からは、継続的に記事を出すようになりました。ほぼ毎月出していますが、継続的に発信することによって、何か変化はありましたか?
今井:明らかに反響が変わりましたね。 記事を読んだ方が「自分たちにも、何かできることがあるかもしれない」と考えるきっかけになっているように感じます。
また経営者の皆さんにとっても、他社の経営者が「なぜ寄付をするのか」という本音に触れる機会は、意外と少ないと思うんです。
そんな中、誰かのストーリーに深く触れることで、支援や寄付が他人事から“自分ごと”に変わっていく。
継続して発信することで、その連鎖が生まれているのを肌で感じています。
「配布しやすい形」にする。対談記事の冊子化アイデア
高野: 少し話は逸れますが、以前、ある企業さんが支援先であるD×Pのパンフレットを会議室に置いてくださっているという話がありました。会社に来られるお客様にも自社の価値観や世界観を伝えるツールとしても使っておられると…。
今井:はい。ずっと活用してくださっています。
高野: それと同じように、Web上の記事も、冊子のように形にして残せたらいいなと思っているんです。
D×Pの事務所に来た方が、パラパラとめくって「あ、こんな人たちが応援しているんだ」と感じて、そのまま持って帰れるようなもの。
そして、それを手渡しで周囲の方にも読んでもらって、少しずつ広がっていくような…。
今井:確かに、そういったやり方もありますよね。Webの記事ももちろん良いですが、紙として手元に残ることで、また違った重みや信頼感が生まれると思います。
ぜひ、いろんな発信方法を模索していけるといいですね。
法人だけじゃない。個人寄付者や卒業生のストーリーも届けたい

今井:実は僕、高野さんと一緒にやりたいことが、まだあるんです。
高野: おっ、なんでしょう?
今井:今は、法人寄付をしてくださっている経営者の方との対談がメインですが、これからは、個人で寄付してくださっている方や、スポーツ選手・文化人の方、そしてD×Pの支援を受けて巣立っていった卒業生たちのストーリーも残していきたいと思っています。
支援者の方の中には、「自分たちが寄付をしたあと、若者が実際にどうなっていったのか」を気にかけてくださる方も多いんです。
一方で、D×Pは僕ひとりで動いているわけではなく、たくさんの人の想いによって成り立っている団体でもあります。
だからこそ、関わってくれた人たち一人ひとりの人生や、その後の歩みを「ストーリー」として発信していきたいですね。
高野:まだまだ、お話をお聞きしたい方がいらっしゃいますもんね。
今井:はい。こうして振り返ると、対談記事を出し始めてから、経営者団体から声をかけていただく機会が格段に増えました。関西だけでも、あちこち講演に行かせていただいて…私もとても忙しくさせてもらって、嬉しい悲鳴です(笑)。
発信することの大切さを、改めて痛感しています。
高野:実は、私たちの方にも反響がありました。
最近、「D×Pさんのあのような対談記事を、ぜひ書いてもらいたい」というお問い合わせをいただくようになったんです。
「自分たちの想いや、事業の価値を伝えるならストーリーテラーズだ」
「NPOの広報支援もされている会社だと知って、ますます共感した」
そんな声をいただくことが増え、私たち自身の事業の価値や想いも、より伝わるようになってきたと感じています。
理屈だけでは伝わらないことも、ストーリーなら届く。人の心を動かせる。
そのことを、D×Pさんとの仕事を通じて、私たちが一番学ばせてもらっている気がします。
今井:そう言ってもらえると、僕も嬉しいです。やっぱり、単に情報をまとめるだけではなくて、その場の空気感や、言葉にならない想いまで汲み取ってくれる。
ストーリーテラーズさんだからこそ、ここまで伝わる記事になったんだと思います。
本当にお願いしてよかった。
これからも、寄付者さんの横にある「ストーリー」を、一緒に届けていってください。
高野:もちろんです。これからも、D×Pさんの活動の「体温」が伝わる記事を、大切に積み重ねていきましょう!
今日は本当に、ありがとうございました!